音楽を聴いてみる(ハードロック)

ジル「ハイレゾ音源で、RushのCounterpartsを聴くのニャ」

タマ「ウィーっす!!」

1時間後

ジル「タマがスピーカーの前で寝そべったまま、両手両足を伸ばし切って動かないのニ

 ャ」

ミケ「彼もリゾームで接続したバンド系プラトー上で、リードギターを担当しています

 しねえ……Rushの音楽が始まったばかりの頃は機嫌よくエアギター的な動きを見せて

 いたんですが、3曲目くらいから何やら怪しくなってきたかと思うと、終盤に至って

 現在の状況に陥り、未だ回復の兆しがないようです」

十数秒後

タマ「ンニャ?どうかしたんですか?」

ジル「こちらの台詞ニャ」

タマ「このスピーカーなのか、ハイレゾ音源なのか、とにかく解像度というんですか、

 それが高すぎて、頭の中でギターパートをなぞっているうちに、対応不能なとんでも

 ない深淵を垣間見てしまいました。それこそ全身鳥肌モノです」

ミケ「鳥肌ねえ……早い話がタマには現実世界でプロのギタリストは無理だってこと

 ね」

ジル「タマが鳥肌モノの深淵を見たというのは、このスピーカーの解像度が高いからと

 いうわけではない。このスピーカーのような小型のブックシェルというタイプのスピ

 ーカーには、驚くべき解像度を誇るものは数多くあるのニャ」

ミケ「えっ、じゃあ師匠がこのスピーカーを評価している理由は?」

ジル「これで音楽を聴いてみて、ミケはどう感じたのニャ」

ミケ「解像度も高いと感じました。でも、それよりも今までに体験したことのないよう

 なライブ感(これはスタジオ録音ですけど)というか、演奏者の醸し出す雰囲気の再

 現性を強く感じました」

タマ「そう、それだったような気がしてきました」

ジル「それでこそ、ワシの弟子なのニャ」

ミケ・タマ「???」

ジル「演奏者が楽曲から感じ取っている微妙で目に見えないもの、いわゆる機微という

 ややこしい感覚だ。それを楽器を通じて表現する行為。そのように目には見えない雰

 囲気を感じ取る力、それを表現する能力、それが相まってセンスというものになるの

 ニャ」

ミケ「タマには表現する能力の方が欠けている、要するにギタリストとしてのセンスが

 ないということですね」

タマ「……」

ジル「そんなに落ち込まなくてもいい、機微を感じ取る能力は先天的なものが多分にあ

 り、幼児期のうちに決定されてしまうが、表現する能力は努力により越えていけるも

 のだから。もっとも個人差はあるのニャ」

ミケ「プラス指向のノマドが目指す、長い上り坂のことですね。タマは練習不足という

 ことね」

タマ「そだね……僕の鳥肌はこのスピーカーが持つ、センスの表現力に圧倒された結果

 のようです」

ジル「そだニャ」

 

 

 

 

 

 

煩悩は才能(アインシュタイン)

数日後

ジル「煩悩を無くす修行って何なのニャ?」

ミケ「魂を清めようとでもしてるんじゃないですか」

ジル「魂を清めて何が楽しいのにゃ?」

ミケ「知りませんよ。それがその人の煩悩なんだから」

ジル「アインシュタインいわく、18歳までに抱く煩悩によって人生が決定される」

ミケ「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションのことだ、でしょ」

ジル「そんなのもあったのニャ?」

ミケ「とぼけないでください」

ジル「煩悩を無くす煩悩に囚われて長い長い上り坂(修行)を登り詰めた後、彼らは何

 者になっているのニャ?」

タマ「山の頂に鎮座している石仏がそうなんじゃないですか?」

ミケ「どうして、人生を賭けてまで石仏になろうとするのでしょう?」

ジル「おそらくは、マイナス指向の煩悩が大きすぎることに、耐えられないのニャ」

タマ「マイナス指向の煩悩?」

ミケ「周りのものを傷つける、陥れる、自ら人生をなし崩しにしてしまう、そのような

 ことに恐れをなしてしまうような人がいるんでしょうか?」

ジル「例えば、自分がサイコパスであると自覚すれば、そのうちの何人かは石仏になり

 たいと考えるかも知れないのニャ」

タマ「そこまで到達する道のりを思うと、本当の意味で仏様ですね」

ジル「頭が下がるのニャ」

ミケ「プラス指向の煩悩が才能ということですか?」

ジル「バンドでメジャーになりたい、芸術家として生きていきたい。そんなプラス指向

 の煩悩を抱いたとして、それを実行に移すためには生活基盤を脅かすような膨大な時

 間を必要とするのニャ」

ミケ「そこでリゾーム(インターネット)の登場じゃないんですか?」

ジル「米津玄師を例にとると、彼はリゾームによって全てのことをクリアした。言い換

 えれば最初からリアルで活動しても成功していた。要するに、その道の天才であった

 のニャ」

タマ「米津玄師がインターネットデビューした同じころ、師匠もボカロ作品をインター

 ネットのサイトに投稿してましたよね」

ジル「インターネットによる時間短縮の恩恵にあずかって、何足もの草鞋を履きながら

 ボカロ作品や小説を投稿していたが、多くの評価は得られなかった。私自身の評価と

 は大きく乖離していたのニャ」

http://lyrics.minna-no.jp/lyrics/view/46894

ミケ「作詞はともかく、曲のアレンジはやりっぱなし感満載ですね」

ジル「始めは作詞だけ投稿していたが、曲を付けてくださいと要望があり、インターネ

 ット等で1週間ほど作曲の基礎を学び、音楽作成ソフトで作成したものを投稿した。

 すると今度はボーカルも聴いてみたいと要望があり、ボーカロイドを使って作成した

 ものを投稿した。ここで少し弁解するが、アレンジについては初心者であり、公開す

 るに足りるようなものでないのは承知していた。のちに研鑽を積んで再度投稿しよう

 と考えていた」

ミケ「でも、10年近く放置されてますよね」

ジル「それは……その後ボーカロイドのソフトを使って1か月も経たないうちに40曲く

 らいにボーカルを挿入したのニャ」」

ミケ「そこで、飽きたんですか?」

ジル「いいや、ある種のゾーンの中にいた。ところがある日、目を開けようとすると、

 見えるはずのない光の粒子のようなものが散乱し、眩しくて、痛くて、眼医者に行っ

 たのニャ」

ミケ「結膜炎にでもなったんですか?」

ジル「眼科医いわく、このように眼を酷使するアイテムが存在するんですか?とのこと

 だったのニャ」

ミケ「そのアイテムがボーカロイドということですか?」

ジル「ボーカロイドは単に作成した段階では、最初から最後まで同じ音量なのだ。そこ

 で折れ線グラフをみながら抑揚をつけていくのだが、その作業が眼にとんでもない負

 担を強いるのだ。もっとも、連日2曲も3曲も作成したのが最大の原因といえる。医者

 にボーカロイドの使用を禁止されて以来、作詞作曲に対する熱も冷めて現在に至ると

 いうわけだが、作詞についてはその時点でピーク感があったので、才能の限界だった

 のだろう。いずれにしても、ツリー(現実世界)リゾーム(インターネット)プラト

 ー(仮想世界)を活用することで結論を出せたことで、飢え死にしなくてすんだのニ

 ャ」

ミケ「しませんよ。師匠の生活基盤ってジゴロですから」

 

 

 

 

 

 

D-TK10というスピーカー(3)

2週間後

ミケ・タマ「おじゃまします」

ジル「そこにある箱をリビングまで運んでくれるかニャ」

タマ「結構重いんですけど」

ジル「だから呼んだのニャ」

ミケ「そのためにですか?」

ジル「こっちじゃこっちじゃ」

タマ「あれっ、アンプがなくなってますよ」

ジル「売ったのにゃ」

ミケ「じゃ、この箱は?」

ジル「買ったのニャ」

タマ「なんで?前のも気に入ってたのに」

ジル「インターネットの記事を見て、このスピーカーと相性の良い気がしたのニャ」

ミケ「早くつないで聴いてみましょうよ」

タマ「箱にプライマーi35と書いてますけど」

ミケ「前のは何でしたっけ?」

ジル「EXOGALのionとcomet。ああ、それにはこれをつなぐのニャ」

タマ「ちっちゃいですね。何ですか?」

ジル「CHORDというメーカーのQutestというDAC(DAコンバーター)ニャ」

ミケ「パソコンに保存した音楽を、デジタルのままUSBで出力したものを、アナログに

 変換するんですよね」

10分後

タマ「つなぎ終わりました。このふっといスピーカーケーブルはどこの製品ですか?」

ジル「ゾノトーンのGranster 7700αという。前に聴いたのはカラヤンブラームス

 響曲第1番だったニャ」

「ダンダンダンダン‼」

ミケ「少し音が籠っているようですが?」

ジル「初めて電源を入れて、暖まってもいないし……しばらくすれば本領を発揮す

 るはずニャ」

ミケ「このちっちゃいスピーカーはいくらでしたっけ?」

ジル「中古なので、半額……75000円なのニャ」

タマ「スピーカーケーブルは?」

ジル「50000円」

ミケ「前のアンプとDACは?」

ジル「700000円」

タマ「今のは?」

ジル「少し安いかニャ」

ミケ「電源回りは?」

ジル「200000円くらいニャ」

ミケ「元値が150000円のスピーカーに、オーバースペックじゃないんですか?」

ジル「ウィルソン・オーディオというメーカーの10000000円以上のスピーカーでも、

 このスピーカーよりも低廉な価格の周辺機器でまともな音を出すのは可能なのニャ。

 ただ、このスピーカーに限っては、まともに鳴らせる最低限のシステムがこれなのニ

 ャ」

タマ「一千万円!!」

ジル「ホールのような部屋で聴くにはそれも必要だが、私のように2m以内のニアフィ

 ールドで聴く分には、このスピーカーが最高峰ともいえるのニャ」

ミケ「師匠の知っている狭い範囲でのことですよね」

ジル「ただ、このスピーカーを購入したものの、本来高能率スピーカー用である極細の

 スピーカーケーブルを使用したり、パワーのない真空管アンプを接続してみたり、試

 行錯誤したあげく、鳴らないという結果になったレヴューを多々見かけるので、どう

 なるか試してみたかったのニャ」

ミケ「このスピーカー15万円程度ですよね」

ジル「そうニャ」

ミケ「普通、スピーカーに最もお金をかけるものだとすれば、スピーカー以外に100万

 円もの出費をするでしょうか?」

ジル「普通の感覚では中古のスピーカーに75000円を出費することも馬鹿げているだろ

 う。音楽鑑賞が生きがいとでもいうなら、異次元が垣間見えるのでどうか?とでもい

 うべきか。スピーカーを含めて50万円以下で、音楽の質をキープシステムも構築でき

 ないか、あれこれ物色している。いずれにしても贅沢な趣味だと言えるが……ただ音

 源については、私がよく利用するレンタルCDでも素晴らしい音楽を聴かせてくれ

 る。近頃CD離れが進んでいるが、音質についてはハイレゾ配信音源>CD>一般配信

 音源となるので、交響曲を聴く場合などは考える必要があるのニャ」

ミケ「昔の音源をリマスターしたハイレゾ音源が、そんなにいいんですか?」

ジル「1960年初頭から1970年代末までのリマスターハイレゾ音源については、確かに

 素晴らしいものが多い。しかし、1980年以降のものから1990年中頃までのものにつ

 いては、デジタル録音の精度のが悪く、あまり効果が感じられないニャ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ネットノマド

ジル「ワシが豪邸に暮らしていることについて、お前らはどう考える?」

タマ「むさくるしいよりも、居心地がいいに越したことないです」

ジル「1980年代のアカデミックには、ノマドであるワシがちゃんとした居を構えている

 ことに合点がいかなかったようなのニャ」

ミケ「ノマドは定住すべきでないということですね?」

ジル「ツリー(リアル)とリゾーム(インターネット)とプラトー(ヴァーチャル)の

 関係性の未来について、その時点でのワシの説明には不十分なところもあって、アカ

 デミックはツリーとプラトーを現実世界での関係性として解釈しようとしておったの

 ニャ」

ミケ「仮想世界ではなく、現実世界のプラトーを渡り歩く、みたいなですか?」

タマ「絶対に定住は無理ですね。ボヘミアン?」

ジル「ワシの著書の中でも、ガタリとの共著(千のプラトー)だけは、アカデミックで

 はなくノマド哲学というべきもので、未来を想像で語っている部分が多く、いうなれ

 ばドゥルーズガタリの公理系なのニャ」

ミケ「要するに、参照しうる文献がないということですね」

ジル「アカデミックは新たに創出されつつある公理系の理解が苦手なのニャ。(千のプ

 ラトーの原書)を手にしたアカデミックがまず最初に参照するのは(千のプラトー

 について、Aが考察した文献であり、Aの文献にはまたBの考察が引用されておる」

タマ「引用のたらい回し……それがアカデミックのやり方かー‼」

ジル「参照する先人たちが存在しないので、仕方ないのニャ」

タマ「じゃあ、ノマドが(千のプラトー)について考察した本を出版すればいいんです

 ね」

ジル「ノマドの哲学者を知らないのニャ」

ミケ「ノマドは、芸術とか未来志向の科学とかには興味を持っても、未来志向の哲学に

 は興味を示さないんですね」

ジル「芸術や科学においても、アカデミックの壁というのが存在するが、哲学ともなれ

 ばノマドが入り込む隙は0に等しいのニャ」

ミケ「今後、(千のプラトー)の正確な解釈が必要とされるんじゃないですか?師匠、現代版を執筆してくださいよ」

ジル「嫌じゃ‼」

ミケ「じゃあ、私がやりますよ」

タマ「いやいや、僕がやりますよ」

ジル「やっぱりワシがやるのニャ」

ミケ・タマ「どうぞどうぞ‼」

 

 

 

 

 

 

 

ノマドの反対語アカデミック

ジル「人間以外の動物は、みんなノマドなのニャ」

ミケ「人間はノマドではないんですか?」

ジル「基本ノマドじゃが、ごく一部の人間に限りそうではないのニャ」

タマ「それは誰?」

ジル「幼児からの学校教育が行き届いた国で、10人に1人が好きでもない勉強を無理強

 いされるとしよう。それらの子供の大半は、大学なりへ進学した時点で勉強への強迫

 観念から解放され、ノマドが回復するのニャ。ところがじゃ、ある種の人間に限り、

 そうはならないのニャ」

ミケ「勉強が遊びになるんですか?」

ジル「そう、さすが弟子なのニャ。ノマドは何らかの遊びの延長上で学ぶことはある

 が、それはインコのものまねと同じで、どこまでも遊びなのニャ。対して、勉強が遊

 びになっている人間は、遊ぶように学んでいたとしても、その行為は学びの延長線上

 にあるのニャ。そう、彼らはアカデミックなのニャ」

 

ノマド的生活

ジル「ワシ(ドゥルーズ)やダヴィンチやアインシュタインなどは、現実世界で何足も

 草鞋を履くことができたのニャ」

タマ「師匠はそんな何足も履いてました?」

ジル「まあ昔の話じゃが、飲む・打つ・売るだニャ」

ミケ「売るって……」

ジル「買ってるようじゃ、生活基盤がどこにもないのニャ」

ミケ・タマ「ヒモですね」

ジル「ワシの場合は門戸が開いておるから、ジゴロだニャ」

ミケ「ああそうですか。なんだか話が脱線してません?」

ジル「ノマドの生活は基本こんなものなのニャ」

ミケ・タマ「わかりません」

ジル「ノマドには本来遊びしかないのニャ。学ぶのは生活基盤を確立するためだけなの

 ニャ」

タマ「師匠は、生活基盤さえも遊びだったんですね」

ジル「お前たちはノマドニャ?」

ミケ「猫ですし、餌をとることを学ぶ以外遊びです」

タマ「芸をする動物は?」

ジル「ご褒美に餌を貰えるから、学びだニャ。ものまねするインコは遊びだニャ」

 

 

リゾームとインターネット

ジル「ワシがリゾームを考察した時期には、インターネットは存在しなかった(出版さ

 れた頃には黎明期ではあったが)何しろロボットや交通機関のような目に見える形で

 想像できるものではないので、どのような意図により、どのような技術により、どの

 ように実現していくのかは、想像し難い面が多分にあった」

ミケ「それで、現状についてはどう考えておられますか?」

ジル「はるかに超えて、まさしく千のプラトーというべきものだニャ」

タマ「何が超えているんですか?」

ジル「ワシのいうリゾームは、ツリーからプラトーへとリアルで接続はしていないのニ

 ャ。ツリーは現実社会における生活基盤等の確立した自己であり、プラトーは無数に

 存在する仮想世界なのニャ。極端に言えば二足の草鞋を履くどころか、千足の草鞋を

 履くことも可能だということだニャ。半世紀前にはインターネットなど存在していな

 いので、何足草鞋を履くにしても、現実世界でしか実現できなかった。レオナルド・

 ダヴィンチのような人間以外がそれをすると、野たれ死にの憂き目を見ることになっ

 たのニャ。想像を超えていると言ったのは、プラトーごとにインターネットに接続す

 る創造物を作成するためのソフトのことだニャ。映像・グラフィックス・小説等、そ

 の他にも数多くあるが、中でもDTM(デスクトップミュージック)の超越度には驚く

 べきものがある。現実世界と仮想世界で二足の草鞋を履くことの一番の違いは?」

ミケ「時間です」

ジル「中でも、DTMの時間短縮度は想像を絶しておった。交響曲をオーケストラにより

 初演して完成とすると、DTMによる仮想世界上の初演(演奏者不在ではあるが)まで

 に要する時間は、とてつもなく短期間である。ゆえに、ダヴィンチでない人間が二足

 や三足の草鞋を履いたからといって、現実世界における生活基盤を確保することは、

 可能なはずなのニャ」