煩悩は才能(アインシュタイン)
数日後
ジル「煩悩を無くす修行って何なのニャ?」
ミケ「魂を清めようとでもしてるんじゃないですか」
ジル「魂を清めて何が楽しいのにゃ?」
ミケ「知りませんよ。それがその人の煩悩なんだから」
ジル「アインシュタインいわく、18歳までに抱く煩悩によって人生が決定される」
ミケ「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションのことだ、でしょ」
ジル「そんなのもあったのニャ?」
ミケ「とぼけないでください」
ジル「煩悩を無くす煩悩に囚われて長い長い上り坂(修行)を登り詰めた後、彼らは何
者になっているのニャ?」
タマ「山の頂に鎮座している石仏がそうなんじゃないですか?」
ミケ「どうして、人生を賭けてまで石仏になろうとするのでしょう?」
ジル「おそらくは、マイナス指向の煩悩が大きすぎることに、耐えられないのニャ」
タマ「マイナス指向の煩悩?」
ミケ「周りのものを傷つける、陥れる、自ら人生をなし崩しにしてしまう、そのような
ことに恐れをなしてしまうような人がいるんでしょうか?」
ジル「例えば、自分がサイコパスであると自覚すれば、そのうちの何人かは石仏になり
たいと考えるかも知れないのニャ」
タマ「そこまで到達する道のりを思うと、本当の意味で仏様ですね」
ジル「頭が下がるのニャ」
ミケ「プラス指向の煩悩が才能ということですか?」
ジル「バンドでメジャーになりたい、芸術家として生きていきたい。そんなプラス指向
の煩悩を抱いたとして、それを実行に移すためには生活基盤を脅かすような膨大な時
間を必要とするのニャ」
ミケ「そこでリゾーム(インターネット)の登場じゃないんですか?」
ジル「米津玄師を例にとると、彼はリゾームによって全てのことをクリアした。言い換
えれば最初からリアルで活動しても成功していた。要するに、その道の天才であった
のニャ」
タマ「米津玄師がインターネットデビューした同じころ、師匠もボカロ作品をインター
ネットのサイトに投稿してましたよね」
ジル「インターネットによる時間短縮の恩恵にあずかって、何足もの草鞋を履きながら
ボカロ作品や小説を投稿していたが、多くの評価は得られなかった。私自身の評価と
は大きく乖離していたのニャ」
http://lyrics.minna-no.jp/lyrics/view/46894
ミケ「作詞はともかく、曲のアレンジはやりっぱなし感満載ですね」
ジル「始めは作詞だけ投稿していたが、曲を付けてくださいと要望があり、インターネ
ット等で1週間ほど作曲の基礎を学び、音楽作成ソフトで作成したものを投稿した。
すると今度はボーカルも聴いてみたいと要望があり、ボーカロイドを使って作成した
ものを投稿した。ここで少し弁解するが、アレンジについては初心者であり、公開す
るに足りるようなものでないのは承知していた。のちに研鑽を積んで再度投稿しよう
と考えていた」
ミケ「でも、10年近く放置されてますよね」
ジル「それは……その後ボーカロイドのソフトを使って1か月も経たないうちに40曲く
らいにボーカルを挿入したのニャ」」
ミケ「そこで、飽きたんですか?」
ジル「いいや、ある種のゾーンの中にいた。ところがある日、目を開けようとすると、
見えるはずのない光の粒子のようなものが散乱し、眩しくて、痛くて、眼医者に行っ
たのニャ」
ミケ「結膜炎にでもなったんですか?」
ジル「眼科医いわく、このように眼を酷使するアイテムが存在するんですか?とのこと
だったのニャ」
ミケ「そのアイテムがボーカロイドということですか?」
ジル「ボーカロイドは単に作成した段階では、最初から最後まで同じ音量なのだ。そこ
で折れ線グラフをみながら抑揚をつけていくのだが、その作業が眼にとんでもない負
担を強いるのだ。もっとも、連日2曲も3曲も作成したのが最大の原因といえる。医者
にボーカロイドの使用を禁止されて以来、作詞作曲に対する熱も冷めて現在に至ると
いうわけだが、作詞についてはその時点でピーク感があったので、才能の限界だった
のだろう。いずれにしても、ツリー(現実世界)リゾーム(インターネット)プラト
ー(仮想世界)を活用することで結論を出せたことで、飢え死にしなくてすんだのニ
ャ」
ミケ「しませんよ。師匠の生活基盤ってジゴロですから」