リゾームとインターネット

ジル「ワシがリゾームを考察した時期には、インターネットは存在しなかった(出版さ

 れた頃には黎明期ではあったが)何しろロボットや交通機関のような目に見える形で

 想像できるものではないので、どのような意図により、どのような技術により、どの

 ように実現していくのかは、想像し難い面が多分にあった」

ミケ「それで、現状についてはどう考えておられますか?」

ジル「はるかに超えて、まさしく千のプラトーというべきものだニャ」

タマ「何が超えているんですか?」

ジル「ワシのいうリゾームは、ツリーからプラトーへとリアルで接続はしていないのニ

 ャ。ツリーは現実社会における生活基盤等の確立した自己であり、プラトーは無数に

 存在する仮想世界なのニャ。極端に言えば二足の草鞋を履くどころか、千足の草鞋を

 履くことも可能だということだニャ。半世紀前にはインターネットなど存在していな

 いので、何足草鞋を履くにしても、現実世界でしか実現できなかった。レオナルド・

 ダヴィンチのような人間以外がそれをすると、野たれ死にの憂き目を見ることになっ

 たのニャ。想像を超えていると言ったのは、プラトーごとにインターネットに接続す

 る創造物を作成するためのソフトのことだニャ。映像・グラフィックス・小説等、そ

 の他にも数多くあるが、中でもDTM(デスクトップミュージック)の超越度には驚く

 べきものがある。現実世界と仮想世界で二足の草鞋を履くことの一番の違いは?」

ミケ「時間です」

ジル「中でも、DTMの時間短縮度は想像を絶しておった。交響曲をオーケストラにより

 初演して完成とすると、DTMによる仮想世界上の初演(演奏者不在ではあるが)まで

 に要する時間は、とてつもなく短期間である。ゆえに、ダヴィンチでない人間が二足

 や三足の草鞋を履いたからといって、現実世界における生活基盤を確保することは、

 可能なはずなのニャ」

 

鉄腕アトム

ジル「鉄腕アトムに描かれた未来は、発達した科学技術によって作り出されたAI等を駆

 使した製品群(ロボット)と対峙して、試行錯誤や対立を繰り返す世界なのニャ」

ミケ「人間がロボット同士を戦わせたり、意思を持ったロボットと人間が争ったり、意

 思を持ったロボット同士がいがみ合ったり、いろんなシチュエーションが提示されて

 いましたね」

ジル「手塚治虫の予想した未来図は、半世紀以上経過した現在更には、はるか未来にお

 いて整合性のとれた形で具現化されると思われるニャ」

タマ「手塚治虫論……ですか?」

ジル「それに引き換え、ワシの予想した未来は、技術的には予想以上の進歩を遂げたに

 もかかわらず、肝心の人間が置き去りにされておるのニャ」

タマ「ワシの予想って、肝心の人間がって、だれが言ってるわけ?」

ジル「ワシじゃ‼ ジル・ドゥルーズが言っておるのニャ」

ミケ「師匠……猫ですけど」

ジル「……手塚治虫は科学がもたらす生活の利便性向上と、人間の共存をテーマとして

 いたが、その問題提起については今後も有効といえるのニャ」

ミケ「師匠はどのような未来を予想していたのですか?」

ジル「ワシは、科学がもたらす社会環境の変化に対応すべき人間像を模索しておったの

 ニャ。社会環境はワシの予想をはるかに上回る状況となったのに、大多数の人間は、

 半世紀前の地平にとどまっておるのニャ」

タマ「師匠のいう社会環境の変化の主たるものは、インターネットですよね‼」

エディプスコンプレックス

ジル「エディプスコンプレックスって、そんなものはないニャ」

タマ「確かに。僕はお父さんが好きで尊敬してるけど、母親をめぐる対抗心なんてない

 です」

ジル「君は、ご両親のどちらに似ていると言われるかニャ」

タマ「母親似だとよくいわれます」

ジル「それは良かった。男は母親に、女は父親に似ているとノープレブレムだニャ」

タマ「男が父親に似たらどうなんですか?」

ジル「特に両親が恋愛結婚である場合、状況としてはエディプスコンプレックスと呼ば

 れている兆候が現れることが多いが、これは単に遺伝の範疇であり、決して精神心理

 学上の問題ではないのニャ」

ミケ「お父さんが好きになった女の人を、お父さんに似ている息子も好きになるってこ

 とですね」

タマ「じゃあ、僕みたいに母親に似た場合はどうなるんですか?」

ジル「それは近親婚を避ける、生物学上の問題なのニャ」

D-TK10というスピーカー(2)

タマ「ちっちゃー‼……何なんすか、このぶっといスピーカーケーブルは?」

ジル「ちゃんとした音を出すためだニャ」

ミケ「それにしても、ツイーターにウーファー10㎝のが一個だけって……仮にもオー

 ディオマニアの崖っぷちにいたオジサン……先生……師匠」

ジル「オジサンで結構だニャ」

ミケ「オモチャのような音しか想像できないんですけど」

ジル「想像通りなんだニャ」

タマ「おっちゃんがスピーカーの購入に失敗した話、なるほど……くだらない」

ジル「だから太いケーブルも必要だったのニャ」

ミケ「音、聴かせてください」

ジル「了解‼ カラヤンが1970年代にイエスキリスト教会で録音した交響曲ハイレゾ

 音源があるから、リクエストがあればどうぞなのニャ」

タマ「おっちゃん、カラヤン好きじゃなかったよね。じゃブラームスの1番ある?」

ジル「あるニャ」

ブラームス交響曲第1番「ダンダンダンダン……」

ミケ・タマ「何何何何‼ この凄い音は」

ジル「オモチャのような音から始まり……結構苦労したのニャ」

タマ「続きをお願いします……師匠」

ジル「このスピーカーの最も恐るべきところは、低能率ということだニャ。他のスピー

 カーの4倍から10倍以上のパワーを投入しなければ同じ音量では鳴らせないのニャ。

 だからアンプの出力は、4Ωで200Wは欲しかったし、少しでも抵抗を軽減するように

 太いスピーカーケーブルにしたのニャ。電源回りもできるだけクリアにして、ようや

 くこの音になったということだニャ。何にしても、これほど環境が顕著に反映される

 スピーカーは他にはないと思うのニャ」

 

D-TK10というスピーカー

ジル「D-TK10というスピーカーのことだニャ」

タマ「ああ、2か月くらい前に買ったどおっ‼って言ってたやつね」

ジル「運良くオークションで中古品を見つけたので購入した。このスピーカーは、ギタ

 ーと同じ工程で作られる特殊な構造をしているので、発注から納品まで2か月くらい

 かかることもある上に、物凄く硬質なウーファーからちゃんとした音が出るまでに、

 また何か月かが必要となれば、命が持つか心配ニャ」

ミケ「それで、ちゃんとした音は出たんですか?」

ジル「出ニャイ」

オプジーボ 終了しました

ジル「私にもいよいよ人生のカウントダウンが始まったようだニャ」

ミケ「赤ん坊だってそうでしょ。確か、4年くらい前にもそんなこと言ってませんでし

 た?」

ジル「あの時は前立腺癌ステージ4で、骨転移もあったはずが、ホルモン療法というの

 が効き続けているようで、医者もあと5年は大丈夫と言ってる。だが、去年見つかっ

 た胃癌は、半年前にオプジーボを終了してから、お手上げ状態ニャ‼」

タマ「なるほど……今回は近未来的な匂いがしますね」

ミケ「私たちを呼んだのは……何か用ですか?」

ジル「明日をも知れん命ゆえ、一刻も早く弟子たちに伝えておかねばならんことが、幾

 つかあるのニャ」

ミケ・タマ「はあ?ただの年の離れた友達じゃないんですか?」

ジル「弟子なのニャ‼」

ミケ「はいはいそうでした」

タマ「それで、遺言の内容って?財産分与とか?」

ジル「違うー‼もっと愚にもつかないことニャ」